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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(オ)795号 判決

上告人

和田守

被上告人

吉田義隆

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

被上告人が上告人の所論の主張事実を争つたことは、記録上明らかであり、また、上告人が所論換地予定地指定以後昭和二八年一二月までの間右換地予定地のうち第一審判決添付第二目録(一)および(二)と重なる部分を除く部分を占有していたことを認めえないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができるのであるから、論旨はその前提を欠き理由がない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について。

およそ、特別都市計画法一三条所定の換地予定地の指定の通知があつたときは、従前の土地の所有者および関係者は、同法一四条一項の定めるところにより、従前の土地について使用収益権を行使することができなくなる反面、換地予定地について従前の土地に存する権利と同じ内容の使用収益権を取得するに至るのであるから、前示の所有者および関係者は、従前の土地ではなく、換地予定地を占有することを前提として、はじめて、従前の土地に対するそれぞれの権利行使の外形をそなえうるものというべきである。したがつて、換地予定地の指定の通知が従前の土地の所有者に対してなされた後においては、その換地予定地を占有するのでなければ、従前の土地の所有権、地上権または賃借権を時効によつて取得することができず、従前の土地を占有したからといつて、右の権利を時効によつて取得することができないものと解するのを相当とする(最高裁昭和四三年(オ)第九二五号同四五年一二月一八日第二小法廷判決民集二四巻一三号二一一八頁参照)。そして、土地区画整理法が施行せられ、右換地予定地が同法による仮換地とみなされた後においても、これと別異に解すべきものではない。

また、従前の土地の所有者に対し換地予定地の指定の通知があつた後において、その換地予定地(土地区画整理法施行後においては仮換地とみなされる。以下同じ。)の一部を占有するにすぎない者は、特段の事情の存しないかぎり、右部分に対応する従前の土地の特定の一部分を確定することができないのであるから、従前の土地の特定部分に対する所有権、地上権または賃借権を時効によつて取得することができないものというべきである。

原審が確定した事実によれば、昭和二三年一二月一〇日になされた本件換地予定地の指定は、当時従前の土地の登記簿上の所有者であつた訴外上善清子に通知されたが、それ以前において、上告人または訴外杉本金次郎が従前の土地の一部を占有した期間はわずか数か月にすぎず、また換地予定地中右通知後上告人または同訴外人が占有したのはその一部に定すぎないというのであるから、右換地予地の一部の占有継続により、上告人が従前の土地の特定部分につき所有権、地上権または賃借権を時効によつて取得することができないものといわなければならない。したがつて、その時効取得を前提として、第一審判決添付第二目録(三)(原判決で訂正されたもの)および(四)の土地つき従前の土地の上に存する権利と同一の内容の使用収益権を有するということもできない。原判決中には、右と見解を異にする部分もあるが、右の点に関する上告人の主張を排斥した原審の判断は、結局相当であり、論旨は理由なきに帰する。なお、所論は、本件換地予定地の指定に関し、特別都市計画法一四条三項所定の使用開始日の指定があつたことを前提として原判決の違法をいうが、右の点については上告人が原審において主張せず、したがつて原審の認定しないところであるから、論旨はその前提を欠くものといわなければならない。原判決には所論の違法なきに帰し、論旨は採用することができない。

同第三点について。

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人が本件従前の土地の所有権および賃借権をもつて被上告人に対抗することができず、したがつて、上告人が本件換地予定地についての使用収益権をもつて被上告人に対抗することができないとした原審の判断は正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解によつて原判決を非難するものであつて、採用することができない。なお、論旨中違憲をいう部分は、原判決の前示の判断が土地区画整理法の解釈を誤つたものであることを前提とするところ、右判断に違法の廉がないこと前示のとおりであるから、論旨は、その前提を欠き、採用のかぎりでない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(小川信雄 村上朝一 岡原昌男)

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